契約プロバイダを越えて届ける仕組み:メールのMXと、国内EDI×Peppolの「二段階問い合わせ」モデル

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0. ねらい

「自分が契約しているプロバイダ」から、相手がどのプロバイダ(あるいは企業ドメイン)と契約していても届けられる——
電子メールは当たり前にこれを実現しています。

同じ感覚を、流通BMS/中小企業共通EDI/OpenPeppol(Peppol)を跨ぐ取引電文にも持ち込みたい、というのが本稿の狙いです。

本稿は、ChatGPT及びGoogle GeminiとのQ&Aを元に、

  1. メールが全世界に届く理由(MX

  2. EDIで同様のことをどう設計するか(SML+国内の「情報提供者→詳細」の二段階問い合わせ)

  3. 具体シナリオ(X→Yの「インボイス」S2C)を多段で成立させる方法(今回の経路に更新)

  4. そのサービスを提供する事業者が何を提供し、誰から費用回収するか

を整理してまとめます。

1. メールは契約プロバイダを経由してどのように全世界あてに届くのか

1.1 結論:契約は「送信口」の契約であり、到達は「標準+探索」で決まります

メールが届く基本はシンプルです。

  1. 宛先アドレス user@example.co.jp から ドメイン example.co.jp を取り出します

  2. DNS(受信サーバ)を引きます

  3. MXで得た受信サーバに SMTP で配送します

自分の契約プロバイダは、主に「自分がログインして送る送信口(MSA)」を提供します。
その先は、相手ドメインのDNSに従い、SMTPで“サーバ対サーバ”配送します。
ここに相手側プロバイダとの個別契約は不要で、相互運用はインターネット標準に委ねられています。

1.2 「再帰DNS」が“探しに行く係”になる理由

利用者(PCや送信サーバ)が毎回、ルートから順に辿って権威DNSに到達するのは非効率です。
そこで、実務では 再帰DNS(Recursive Resolver) が代理で探索します。

利用者 → 再帰DNS:
「example.co.jp のMXを教えて」

再帰DNS(キャッシュがない場合)の探索手順は次のとおりです。

  1. ルートに聞きます(.jpはどこか)

  2. .jpに聞きます(co.jpはどこか)

  3. co.jpに聞きます(example.co.jpの権威DNSはどこか)

  4. example.co.jpの権威DNSに聞きます(MXを取得します)

  5. TTLの範囲でキャッシュします

この「代理探索+キャッシュ」により、世界規模でも高速に“宛先解決”ができます。

1.3 メールの要点をEDIに移すときの観察

メールの成功要因は次の三点です。

  1. アドレスが一意(user@domain)

  2. 探索が共通DNS

  3. 配送が共通(SMTP)

EDIでも同じ構造が欲しいのですが、EDIは文書種(doc_type)やプロファイル(仕様版)で受信能力が変わります。
したがって、メールのMXよりも多い「能力(capability)」が必要になります。

2. 流通BMS/中小企業共通EDI/OpenPeppolで、契約プロバイダから他のプロバイダ契約先へどう届けるか

2.1 “メールのMX”に相当するもの:二段階問い合わせ

今回の議論で整理した最適形は、次の二段階です。

  1. 情報提供者(送信先サービス事業者)を見つけます(軽量・高速・キャッシュ向き)

  2. その事業者に詳細(受信能力、endpoint、証明書等)を確認します(更新頻度高・詳細)

Peppolは、これをほぼそのまま実装しています。

  • 第1段:SMLに聞くか」を解決します

  • 第2段:SMPで「DocTypeごとのendpoint等」を取得します

ただし、Peppolネットワークから外部ネットワーク(共通EDI/流通BMS等)へ“橋渡し”する場合、
PeppolのSMLだけでは完結しないことがあります。
次節のシナリオは、その典型です。

2.2 ネットワークの整理:何が「探索」で何が「配送」か

領域 探索(第1段/第2段) 配送(実運搬)

OpenPeppol(Peppol)

第1段:SMLDNS)→ 第2段:SMP

AS4(AP間)

中小企業共通EDI

(現状)プロバイダのアドレス帳/提携テーブル

ESP間連携

流通BMS

(現状)取引先マスタ/提携テーブル

VAN/流通BMS配下の配送

3. 次の送信(X→Y インボイス)をどのように実現するか

3.1 前提シナリオ(多段ルート)

ここでは、Peppolネットワークから外部へ連携サービスを提供するB社が“出口”になり、
その先は共通EDI/流通BMSの提携経路で最終宛先Y社へ届ける、という前提を置きます。

下記のルートで「インボイス」を届けたい、という前提です(S2C:Sales to Cash)。

X社 → A社(X社はA社と契約:送信)
A社:Peppolで宛先解決(SML/SMP)し、B社が受信側へ到達
B社 → C社(個別API転送)
C社 →D社(共通EDIのESP間連携)
D社 → E社(個別API転送)
E社 → Y社(流通BMS最終配送)

ここで重要なのは次の二点です。

  1. Peppol区間の宛先解決(SML)で“到達する受信側”は、最終宛先Y社ではなく「外部連携の出口であるB社」になっている点

  2. したがって Y社向けの情報はPeppolのSMLには登録されていない

このため、PeppolのSMLだけで「Y社へどう届けるか」を解決できません。
B社がPeppolネットワークから外部へ連携サービスを提供する以上、B社は別途、

  • 「Y社(共通ID)をキーに、次ホップ(C社)や後段の配送条件を決めるための情報提供サービス(ディレクトリ/アドレス帳)」

  • その情報を運用・更新・監査する仕組み(オンボーディング、変更、失効、移管)

を提供しておくことが必要になります。

本モデルの核心は、「物理的な配送先(プロバイダ)」と「論理的な宛先(最終受領者)」の分離です。

  1. SML/SMPには「窓口としてのB社」のみを公開

    • 最終受領者Y社がPeppol ID(法人番号等)を持たない場合、SMLにY社を登録することはできません。

    • 代わりに、B社が自社のParticipant IDを「外部連携ゲートウェイ」として公開し、A社(送信側)はB社を宛先として電文を配送します。

  2. SBDH(業務封筒)によるルーティング

    • 配送された電文を受領したB社は、業務封筒(SBDH)内の Receiver 項目を確認します。

    • ここに記載された業界コード、内規ID、あるいはベンダー固有IDをキーに、B社内のルーティングエンジンが「次ホップ(C社)」を特定します。

  3. ID変換・マッピング(ブリッジ機能)

    • B社は、Peppol標準のID体系と、後段(共通EDI/流通BMS)で使われるレガシーまたは独自IDの変換マップを保持し、シームレスな中継を行います。

A社:Peppolサービス事業者(X社の契約先)
A社は、Peppol(OpenPeppol)ネットワークでの送受信サービス(AP相当の機能)を、契約顧客であるX社に提供します。
具体的には、Peppolの仕組み(SML/SMP)を用いて宛先解決を行い、Peppol上の配送(到達)を担保し、証跡(ログ)や再送制御を提供します。
B社が公開している宛先情報サービスに基づいてY社向けのメッセージを4コーナーモデルを用いてB社に送付します。

B社:Peppolサービス事業者(Y社宛の中継)
本シナリオでは、B社は共通EDIサービス事業者C社と提携し、Peppolで受領した電文をC社へ個別APIで転送する「相互サービス連携」を提供します。
言い換えると、B社は「Peppol側の入口」と「国内連携の起点」を兼ねます。

C社:共通EDIプロバイダ(Peppol接続のブリッジ事業者)
C社も中小企業共通EDIのサービス事業者として、参加者向けに送受信・運用サービスを提供します。
本シナリオでは、C社がPeppolサービス事業者B社と提携し、B社から個別APIで受け取った電文を、共通EDIのESP間連携で国内側(D社)へ引き渡す「相互サービス連携」を提供します。
つまりC社は、国際側(Peppol)と国内側(共通EDI)をつなぐ中継事業者です。

D社:共通EDIプロバイダ(流通BMS接続のブリッジ事業者)
D社は、中小企業共通EDIのサービス事業者として、共通EDIの参加者(企業)向けに送受信・運用サービスを提供します。
加えて本シナリオでは、D社が流通BMSプロバイダE社と提携し、D社→E社間の個別API転送(および必要な変換)により、共通EDI側から流通BMS側へ届ける「接続サービス(ブリッジ)」を提供します。
つまりD社は、国内側で「次ホップを決めてE社に引き渡す」中継事業者です。

E社:流通BMSプロバイダ(Y社の契約先)
E社は、流通BMSのネットワーク/運用の中で、Y社向けに受信・配送(配下配信)サービスを提供します。
具体的には、流通BMSのルールに従い、取引先から届いた電文をY社の受信環境(EDI/基幹取込)へ確実に届け、到達確認や再送、監査ログ等を提供します。
本シナリオでは、E社は「最終配送(Y社への到達)」を担う事業者です。

Note

B社の利用者としてY社をSMLに登録することで、X社からY社へのOpenPeppolネットワーク内を通常の4コーナーモデルとして扱うことが可能ですが、Y社がPeppol Authorityが要請している法人番号や登録番号を持つとは限りません。

この課題に対し、次の記事では、「業務層(SBDH)と輸送層(AS4)の役割分離」を提唱しています

この原則に基づくと、以下の運用が現実的です。

  • 輸送層(AS4)の解決: SML/SMPには「窓口としてのB社(C3)」の情報のみを公開し、AS4の配送先(eb:To)をB社に固定します。

  • 業務層(SBDH)の解決: SBDHの Receiver(最終受領者)には、SML未登録であっても業務上の当事者であるY社の識別子(業界コードや内規ID)を直接記載します。

受領したB社は、SBDH内の論理宛先を自身のルーティングエンジンで解析し、後段のネットワーク(共通EDIや流通BMS等)へ引き渡します。これにより、公的番号を持たない中小零細企業や個人事業主を、Peppolを起点としたデジタル取引の網から排除することなく救済することが可能となります。

3.2 成立条件(最小要件)

この多段を壊さず成立させる鍵は五つです。

(1) 共通ID(party_key)を固定します(Y社を一意に識別)

X社・Y社を一意に指すID(例:法人番号、gBizID等)を 共通ID(party_key) として固定します。
PeppolのParticipant IDや国内の取引先コード等は、共通IDに紐づく“別名(alias)”として管理します。

(2) Peppol区間は「B社まで」を宛先として設計します

A社はSMLを使い、対象DocType/ProcessIDで受信可能な“Peppol上の受信先”としてB社へ到達させます。
ここでは「最終宛先=Y社」ではなく「Peppol出口=B社」を宛先にしていることを明確にします。

(3) B社が「外部宛先(Y社)解決」の情報提供サービスを持ちます

Y社向けの情報がSMLに存在しないため、B社は少なくとも次を返せる必要があります。

  • party_key(Y)next_hop = C社(または複数候補)

  • 送るべきプロファイル/制約(例:共通EDIでの取り扱い、最大サイズ等)

  • 参照先(B社自身のアドレス帳/ディレクトリ)とTTL

これは、PeppolのSMLが提供する「どこに聞くか」を、Peppol外ではB社が肩代わりする、という意味です。

(4) trace_id(追跡ID)+ACK(受領/最終配信)+冪等性が必要です

多段・再送が必ず発生するため、以下は必須です。

  • trace_id:全区間で同一IDを貫通させます

  • ACK-1(Accepted):区間の受け口が受領し保管した証拠です(B社/C社/D社/E社)

  • ACK-2(Delivered):最終配送(Y社取込完了等)の証拠です(E社→Y社で確定)

  • 冪等性:trace_idで二重登録を防止します(Idempotency-Key 等)

(5) 送信前の「経路ヘルスチェック」(事前PING)を追加します

Peppol区間の宛先解決が正しくても、外部連携区間(B→C、D→E等)が停止していると配送が滞ります。
そのため、送信に先立って「経路が生きているか」を軽量に確認する仕組み(PING/Health Check)を入れておくと運用が楽になります。

Peppol側(能力チェック)
* A社は送信前にSMPを参照し、B社が対象のDocumentType/ProcessID(インボイス)を受信可能かを確認します。

外部連携区間(疎通チェック)
* B社→C社:個別API GET /health / POST /ping
* C社→D社:ESP間連携の稼働確認(必要に応じて疎通確認APIやキュー監視)
* D社→E社:個別API GET /health / POST /ping

3.3 最終受領者Y社の情報は、B/C/Dにどうやって開示されるのか

「Y社向けの情報がPeppolのSMLには無いのに、B社/C社/D社はどうやってY社に届けるのか?」という点が、今回の方式のいちばん重要なポイントです。
結論から言うと、Y社の情報は SML(公開ディスカバリ) ではなく、Peppol外の連携網における “閉じた情報提供(ディレクトリ/アドレス帳)” として、段階的に共有されます。

この仕組みはメールで言えば「ドメインのMXは公開DNSで引けるが、企業内の配布先(部署・担当)や付加条件は社内アドレス帳で管理する」に近い構造です。

(1) SBDHが運ぶのは「Y社の識別子(論理宛先)」です

今回のルートでも、業務封筒(SBDH)の Receiver は常に Y社 を指します。
したがって、B社/C社/D社は、電文を受け取った時点で「最終受領者がY社である」こと自体は 電文(SBDH)から分かります

ただし、SBDHだけでは「次にどのプロバイダへ渡すべきか(物理宛先)」は分かりません。
ここを埋めるのが、次の“情報提供サービス(ディレクトリ/アドレス帳)”です。

(2) B社は「Peppol出口」として、Peppol外の宛先解決サービスを持つ必要があります

B社がPeppolネットワークから外部へ連携サービスを提供する場合、
Y社向け情報はPeppolのSMLに登録されていない*ため、B社はSML/SMPだけではY社までの経路を決められません。

このためB社は、少なくとも次を返せる“情報提供サービス”を提供しておく必要があります。

  • Y社ID(共通ID)次ホップ = C社(または複数候補)

  • 共通EDI区間に投入するための属性(プロファイル、制約、運用条件)

  • TTL(キャッシュ方針)と更新・失効のルール

この情報提供サービスは「公開SML」ではなく、
B社と提携する相手(C社など)だけが参照できる、閉域・認証付きのディレクトリとして運用します。

Note

課題: Y社の情報がSMLにない以上、B社がその情報を正しく維持・管理する責任は極めて重くなります。もしB社が誤った宛先を解決した場合の損害賠償や、データの真正性をどう担保するか(署名等)。

(3) C社・D社が必要とするY社情報は「自社のアドレス帳」として段階的に配布されます

B社が Y → C を解決した後、C社は次に Y → D を解決する必要があります。
同様に、D社は Y → E を解決する必要があります。

ここでのポイントは「B社が全部を知る必要はない」という点です。
多段連携では、各社は “自社が次に渡すべき相手” だけを解決できれば十分です。

そのため実務的には、次のいずれか(または併用)で実現します。

  • 方式1:各社が独自に「自社アドレス帳」を持ち、提携先(上流・下流)と同期します

    • C社アドレス帳:Y → D

    • D社アドレス帳:Y → E

  • 方式2:上流が「次ホップ」情報を付与して渡し、下流はそれを検証・補完します

    • 例:B社がC社向けに routing_hint(候補D社)を添付し、最終決定はC社のアドレス帳で行います

  • 方式3:上流がディレクトリ照会を“代理”し、結果(署名付き)を渡します(暫定策)

(4) “開示”の実体はオンボーディング(参加登録)と更新運用です

「Y社の情報がいつ、どうやってB/C/Dに渡るのか」は、技術というより運用設計です。
典型的には次の流れになります。

  1. Y社が自社の契約先(流通BMS側:E社)で「受信登録」を行います

  2. E社は到達先(受信箱/取込条件)を確定し、上流(D社)へ “次ホップ情報” を登録します

  3. D社は Y → E を自社アドレス帳に保持し、必要に応じて上流(C社)へ到達情報を提供します

  4. C社も同様に、自社の次ホップ解決に必要な最小情報を保持し、上流(B社)へ提供します

  5. B社は Y → C を保持し、Peppol出口としてY宛電文をC社へ中継できるようにします

このように、最終配送側(Y社側)で確定した情報が、提携チェーンに沿って必要最小限で上流へ伝播するのが定石です。

(5) なぜ「必要最小限」なのか(情報最小化と責任境界)

B/C/Dが持つべきは、原則として次の“最小セット”です。

  • Y社の識別子(共通ID)

  • 次ホップ(どのプロバイダへ渡すか)

  • その区間で必要な配送条件(プロファイル、制約、証跡要件、TTL

住所や担当者名など過剰な情報は不要ですし、取引関係の秘匿も必要です。
また、責任境界(誰がどこまでを到達保証するか)を明確にするためにも、
「各社は自社の区間に必要な情報だけを持つ」設計が向いています。

(6) 監査と改ざん対策(誤配送を防ぐ)

多段で情報が伝播すると、誤配送やなりすましリスクも増えます。
そのため、次をセットで設計するのが重要です。

  • 登録・更新の権限(Y社本人/代理、どの事業者が更新できるか)

  • 更新履歴(いつ誰が変更したか)

  • 配送条件の署名・検証(必要なら)

  • TTLと失効(古い経路をいつ捨てるか)

  • trace_id貫通とACK(Accepted/Delivered)で、結果を追跡可能にします

3.4 SBDHをどう使うか(業務封筒と輸送封筒の分離)

区間が分かれるほど、SBDHの価値が上がります。
ここで重要な設計原則は「業務層(SBDH)と輸送層(AS4/API)の分離」です。

SBDH(業務層): Sender/Receiver は「取引当事者(C1/C4)」を表します

— 三分一技術士事務所
「共通EDIとOpenPeppolをSBDHで接続する:Sender/Receiver と originalSender/finalRecipient の指定」

したがって、たとえPeppol区間の宛先がB社であっても、SBDHは次で固定します。

  • SBDH Sender = X社

  • SBDH Receiver = Y社

  • DocumentIdentification.InstanceIdentifier = trace_id

一方、輸送ヘッダ(AS4/API/ESP)は区間の通信相手(A→B、B→C…)を表し、都度付け替えます。

3.5 SBDHの「論理ID」から物理接続先を決めます(UN/CEFACT Processing Flowの要点)

SBDHが“論理封筒”として機能するためには、通信アプリケーションが「論理→物理」の解決を担う必要があります。

SBDH に記録された論理的送信者・受信者 ID をもとに、パートナーテーブルから実際の接続先や使用すべきプロトコルを引き当てます。

— 三分一技術士事務所
「UN/CEFACT SBDH 第5章『PROCESSING FLOW OVERVIEW』解説と構造化CSV & コアインボイス・ゲートウェイ」

今回のシナリオでは「Peppol外の宛先解決」をB社が担うため、処理の要点は次のようになります。

  • A社:SML/SMPで「B社へ到達」させる(Peppolの範囲)

  • B社:SBDH Receiver=Y社 を見て「外部宛先解決(Y→C)」を行い、C社へAPI転送する

  • C社:共通EDI区間でD社へ引き渡す

  • D社:E社へAPI転送する

  • E社:流通BMS配下でY社へ最終配送する

3.6 フロー図(概念)

Diagram
Note

課題: 各区間がリアルタイムAPI(個別API転送)でつながっている場合、一箇所でも応答が遅延すると、送信側A社のセッションがタイムアウトする恐れがあります。「非同期メッセージング(キューイング)」をどこで担保し、誰が再送を司るのか(各プロバイダの責任境界)が問題となります。

4. このサービスを提供するサービス事業者は何が必要で、何を誰に提供するのか(ビジネスモデル)

4.1 役割の分解(A/B/C/D/Eの提供物)

事業者 主な役割 提供物(誰に) 最小の責任

A社
(Peppol送信側)

Peppolの宛先解決と配送
(B社まで)

送信窓口(契約者:A社の顧客)に対する中継
B社へ:Peppol配送

SML/SMP参照、ログ、再送制御

B社
(Peppol出口/
外部連携)

Peppol受領、
外部宛先(Y社)の解決、
C社へのAPI転送

A社へ:受領/状態
C社へ:個別API転送
(必要)外部宛先解決サービス

Peppol外のディレクトリ/アドレス帳運用、冪等性、監査ログ

C社
(外部連携/
共通EDI入口)

B社から受領し、
共通EDI区間へ投入

B社へ:受領/状態
D社へ:ESP間連携

受領保証(ACK-1)、キュー/再送、監査ログ

D社
(共通EDI出口/
外部連携)

ESP間連携で受領し、
E社へAPI転送

C社へ:受領/状態
E社へ:個別API転送

冪等性、監査ログ、エラー返却

E社(外部連携/流通BMS入口)

Y社への最終配送

D社へ:配信結果
Y社へ:配信/取込支援

最終配送(ACK-2)、照会、再送要求対応

Diagram

4.2 「情報提供者→詳細」の二段階に必要な“提供物”

二段階問い合わせを成立させるため、サービス事業者は次を提供します。

第1段(Discovery):情報提供者を見つけます

提供物:
* party_key(Y) → provider_id(どこに聞くか)
* directory_url(第2段の問い合わせ先)
* TTL(キャッシュ方針)

提供先:
* 送信側プロバイダ(例:D社)または共通リゾルバです

実装形態:
* 当面はAPI(共通リゾルバ)でも問題ありません
* 将来はDNS(国内SML相当)に置換可能な形にしておきます

第2段(Directory):詳細を返します

提供物:
* doc_type/profile/versionごとの受信可否
* endpoint(API/AS4/VAN宛先)、証明書参照
* 制約(署名必須、最大サイズ、応答SLA)
* 監査可能な根拠(evidence)

提供先:
* 送信側(D社/C社/B社など、区間の先頭)です

4.3 費用回収(誰から、何に対して)

現実的なビジネスモデルは複数あり、重畳してよいです。

(A) 契約企業からの月額+従量

(最も一般的です)
* 契約企業からの月額+従量:送信窓口(X側の契約先)/受信窓口(Y側の契約先)
* A社は X社から(送信口+到達保証)
* E社は Y社から(受信箱+社内取込)

(B) 事業者間(B2B)接続料

(提携API/ブリッジ運用です)
* 事業者間接続料:Peppol外部連携(特にB社の外部宛先解決とAPI転送)に対する接続料
* B社→C社のAPI転送は、B社がC社に接続料(または従量)を支払います
* D社→E社の接続も同様です(D社がE社へ)

( C) 送信者課金(郵便切手モデルです)

  • 送信者課金(郵便切手モデル):最終到達までを一括で負担し、途中を分配(SLA連鎖が必要)

  • X社(またはA社)が、最終到達(Y社取込完了)までの一括料金を負担します

  • A社がB/C/D/Eへ分配します(SLA連鎖が必須です)

(D) 受信者課金(受信箱モデルです)

  • 受信者課金(受信箱モデル):受信・取込・照合まで含めて課金

  • Y社(またはE社)が、受信・取込・照合(仕入明細→仕訳等)を含めて課金します

4.4 サービス事業者に必要な共通要件(最小チェックリストです)

  • 参加者管理(オンボーディング、本人確認、委任、失効)

  • ルーティング(party_key→次ホップ)

  • 追跡(trace_id貫通、ログ、検索)

  • ACK設計(Accepted/Delivered)

  • 冪等性(再送の二重抑止)

  • セキュリティ(mTLS、署名、リプレイ対策)

  • 可用性(SLA、障害時のフォールバック)

5. ビジネスモデルと責任分界

5.1 各事業者の提供物と責任

事業者 提供物 最小の責任

A社(送信側)

Peppol配送(B社まで)

SML参照、B社への確実な配送

B社(出口)

論理宛先解決・IDマッピング

SBDHに基づく次ホップ特定、ID変換

C・D・E社

各ネットワーク内の配送

区間内の到達保証、ACK返却

5.2 監査とトレース

多段配送では、trace_id を全区間で貫通させることが不可欠です。B社はPeppol側の「受領証(Message Level Response)」と、後段ネットワークからの「到達確認(ACK-2)」を紐付け、送信者に最終的な配送ステータスをフィードバックする役割を担います。

6. まとめ:Peppol外に出るときに必要な「追加のディスカバリ」

PeppolはSML/SMPにより、ネットワーク内での宛先解決と配送を標準化しています。
しかし、Peppolネットワークから外部へ連携サービスを提供する場合、最終宛先(今回のY社)の情報はPeppolのSMLには登録されていない設計になり得ます。

その場合は、PeppolのSML/SMPとは別に、

  • 「Peppol出口(B社)が、Y社向けの次ホップ/配送条件を返す情報提供サービス(ディレクトリ/アドレス帳)」

  • 「その運用(登録・更新・失効・移管)」

を用意することが必要になります。

これにより、メールのMXに相当する“探索”を、Peppol外の区間でも成立させられます。

7. まとめ:デジタル化の「ラストワンマイル」を埋めるブリッジ

Peppolを単なる「インボイス交換網」として捉えると、ID未保有層の切り捨てが懸念されます。
しかし、本稿で提案したSMLには窓口(プロバイダ)を、SBDHには論理宛先を」という二段階解決モデルを採用することで、既存のEDI資産や多様な事業者層を包含した、真の意味で「分断をほどく」業界EDI統合が実現します。

8. 提言:公的番号を持たない層(免税事業者・個人事業主)の救済

日本におけるPeppol Authority(デジタル庁)の現行ルールでは、JP PINTの利用に「法人番号」または「インボイス登録番号」を強く推奨しています。
しかし、区分記載請求書や支払明細の送付先には、これらの番号を持たない中小零細企業や個人事業主が膨大に含まれます。

  • 「番号を持たない層」をどう救済するか

  • これこそが、B社の手法のような「ブリッジ事業者」が提供する付加価値サービス(ID変換・マッピング)の主戦場となります。

  • 公的IDを強制して小規模事業者を排除するのではなく、ブリッジ事業者が「論理宛先解決」を肩代わりすることで、サプライチェーン全体のデジタル化を完遂させることが可能になります。

Note

【デジタル庁ポリシーとの戦略的融和と透明性の確保】

日本におけるPeppol Authority(デジタル庁)は、取引の透明性と名寄せの正確性を期するため、法人番号やインボイス登録番号といった「公的識別子」の利用を強く推奨しています。B社が「窓口(C3)」として、背後にいる未登録のY社をカプセル化(隠蔽)して配送するモデルは、実務上の救済策としては有効ですが、当局の掲げる監視方針や透明性維持の観点と衝突する可能性があります。

この課題を解決するため、以下の「当局が認める形式での救済」を併行して検討する必要があります。

代理登録モデルの活用: B社がプロバイダーの登録番号を利用し、B社管理下の受領者としてY社をSML/SMPに正式に代理登録する。これにより、Peppolネットワーク上でのディスカバリが可能となり、透明性が担保されます。

SBDHによる明示: SBDH(業務封筒)内において、最終受領者が未登録層であることを示す属性を付与し、ゲートウェイが責任を持って本人確認(Know Your Business)を行っていることをデジタル署名等で証明する。

このように、ブリッジ事業者が「公的IDへの移行期間における後見人」として機能することで、デジタル庁のポリシーと実務的な包含(インクルージョン)を高い次元で両立させることが可能になります。

9. 本来あるべき姿:国による「統合SML」とgBizIDベースの共通識別子

本稿で示した「B社(ブリッジ事業者)による論理宛先解決」は、現時点でのEDI分断を乗り越えるための現実的な解です。しかし、中長期的なレジリエンスとコスト低減を考えれば、この機能は「公共財(パブリック・インフラ)」として整備されるべきです。

9.1 gBizIDを核とした共通探索基盤の構築

本来、宛先探索の「根(Root)」は、国が提供する 統合SML(共通探索基盤) であることが望ましいといえます。具体的には、以下のアーキテクチャへの移行を提言します。

  • gBizIDベースの事業者番号発行
    すでに実在証明と権限管理の基盤となっているgBizIDを、EDIのParticipant IDのキーに据えます。法人番号を持たない中小零細企業や個人事業主に対しても、gBizIDのアカウント体系に基づいた「公式なEDI識別子」を国が自動発行します。

  • メタ・ディレクトリとしての統合SML
    デジタル庁等の公的機関が、特定のプロトコル(Peppol等)に依存しない「統合SML」を運用します。
    送信側が「gBizID」で問い合わせると、統合SMLは「その事業者が、どのネットワーク(Peppol / 共通EDI / 流通BMS等)の、どのプロバイダ(エンドポイント)を使っているか」を一元的に回答します。

9.2 「ワンスオンリー」のEDIへの適用

gBizIDとSMLが統合されることで、事業者は一度gBizIDの管理画面で自社の利用プロバイダを登録するだけで、あらゆるネットワークからの電文を受け取ることが可能になります。

Important

この「公共SML」が実現すれば、B社のようなブリッジ事業者は「宛先を解決する」という重荷から解放され、本来の価値である「データの高度な変換」や「金融・会計連携を通じた消込の自動化」といった高付加価値サービスにリソースを集中できるようになります。

9.3 結論:民間によるブリッジから公共インフラへの昇華

民間の創意工夫(SBDHによる論理解決)で「分断」をほどきつつ、最終的には国がgBizIDを核とした強力な探索基盤を提供することで、日本のEDIは初めて「真の相互運用性(Connect Once, Connect to Everyone)」を達成します。これこそが、デジタルインボイス普及の決定打であり、サプライチェーン全体の生産性を引き上げる鍵となります。

10. 用語解説

DNS

Domain Name System。ドメイン名とIPアドレス等の対応を解決する分散型の名前解決基盤です。メールではMXやA/AAAA等を参照します。

ESP

Electronic Service Provider の略です。(本稿では)中小企業共通EDIにおけるサービス事業者(プロバイダ)を指します。利用企業はESPと契約して送受信サービス(登録、運用、監査、再送など)を利用し、異なるESPの契約企業間で電文を交換する場合は、ESP間連携(ネットワーク間接続)により中継・転送します。

MSA

Message Submission Agent の略です。利用者(メールクライアント)からメールを受け取り、送信(submission)として受け付けるサーバ/機能を指します。一般にSMTP(submission用ポート、認証あり)で受け付け、送信者認証・スパム対策・送信制限・ログ記録などを行ったうえで、次段のMTA(Message Transfer Agent)へ引き渡します。記事中の「自分がログインして送る送信口(MSA)」は、この役割を指しています。

MX

Mail Exchanger の略です。DNSのレコード種別の一つで、あるドメイン宛てのメールを受け取るメールサーバ(MTA)のホスト名を示します。複数登録される場合は優先度(preference)が付き、送信側は通常「優先度が高い(数値が小さい)MX」から順に接続を試みます。MXが引けることで「このドメイン宛メールはどこに届ければよいか」が分かり、SMTP配送の起点になります。

SML

Service Metadata Locator。Peppolにおけるディスカバリ基盤で、DNSはどこか」を解決します。

SMP

Service Metadata Publisher。Peppolにおけるサービスメタデータ公開(ディレクトリ)で、DocumentType/Process等に応じた受信可否やエンドポイント、証明書等の情報を提供します。

TTL

Time To Live。DNS等でキャッシュしてよい時間(秒)を示します。短いほど変更に追随しやすく、長いほど問い合わせ負荷が下がります。


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