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仕訳日記帳は「鑑」ではなくインボイス金額を基準に起票する――実務解説
2025-10-28
1. 概要
本稿の結論は明快です。仕訳日記帳の起票は “インボイス(当月の対価)に係る金額” を基準に行い、鑑(繰越・入金・差引の表示)は記帳対象にしない。
鑑は精算・残高案内であって、対価の発生や消費税計算の基礎ではありません。
2. なぜ鑑を記帳しないのか
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対価(収益)と精算(キャッシュ)の分離:: 収益・費用は引渡し/役務提供で認識。鑑の「前月繰越」「当月入金」は回収・残高情報=当月対価ではない。
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税(消費税)は対価ベース:: 課税/非課税/税率の判定は当月の取引(対価)に紐づく。入金・繰越は課税対象外であり、税額を動かさない。
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監査トレイルが明確:: インボイス=原始証憑。鑑=照合・案内。役割を分けるほど追跡が容易。
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売掛金(サブレジャ)整合:: 売上計上はインボイス金額、入金は入金仕訳で消込。鑑を起票に混ぜると重複・齟齬の原因。
3. CII/UBL の項目解釈と会計起票
- 起票対象(記帳する)
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行/ヘッダの対価金額(ライン合計、文書合計)
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Allowance/Charge(値引/加算=対価性あり。税カテゴリ/税率を付与)
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差額インボイス(増減調整をInvoiceで発行する場合の差額)
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- 起票対象外(原則記帳しない)
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鑑の前月繰越・当月入金・差引繰越残高(入金は別の入金仕訳で処理)
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Financial Adjustmentのうち端数・遅延利息・為替差などの対価外(不課税運用)
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※会計方針で遅延利息等を計上する場合は、別勘定(収益/費用)で税不課を明示
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4. 仕訳例(あなたの数値に沿ったミニケース)
4.1. 1) 当月のインボイス(税抜 300,000、消費税 30,000)
(借)売掛金 330,000
(貸)売上高 300,000
(貸)仮受消費税 30,000
4.2. 2) 前月請求分の当月入金(120,000)
(借)現預金 120,000
(貸)売掛金 120,000
注: 鑑に「当月入金(前月請求分)▲120,000(不課税)」と表示しても、別に起票しない(入金仕訳で処理済み)。
4.3. 3) 端数調整 −2(Financial Adjustment、不課税)
原則、インボイス仕訳には含めない。方針により以下のように別仕訳とする場合あり:
(借)売上割引/雑損 2
(貸)売掛金 2
※ 消費税は不課税。
4.4. 4) 値引(差額“減”を Invoice で発行)税抜 −12,000、税 −1,200
(借)売上値引 12,000
(借)仮受消費税 1,200
(貸)売掛金 13,200
ポイント: 元票参照(番号/日付)を差額インボイスに必ず付す。税カテゴリ/税率は元票と整合。
5. 鑑の見せ方(表示はOK、記帳はNG)
以下は表示のみ(記帳基礎にはしない):
前月繰越 ¥120,000
当月入金(前月請求分) ▲¥120,000 ※不課税(対価外・税計算に不参入)
差引繰越残高 ¥0
当月発生額(税抜) ¥300,000 ※課税対象(当月対価)
消費税(10%) ¥30,000
当月ご請求額 ¥330,000
今回お支払合計 ¥330,000(= 差引繰越残高 0 + 当月ご請求額 330,000)
6. システム実装の勘所(誤起票防止)
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データ分離:: 取込時に「対価項目」と「鑑/精算項目」を別テーブルへ。
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会計連携マップ::
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行金額・Allowance/Charge → 損益+税
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Financial Adjustment(対価外)→ 原則非連携(方針で別勘定)
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鑑の繰越・入金 → 連携しない(入金は入金明細から)
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自動検証::
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「当月ご請求額(対価+税)」と「今回お支払合計(繰越・入金込み)」の混同を検出
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税は対価ベースのみで再計算して突合
7. 例外・補足
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差額インボイス運用(Credit/Debitを使わずInvoiceのみ):: 元票参照+理由(コード/文)+差額金額を厳密に。税属性は元票と一致させる。
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金融性項目(遅延利息等):: 会計で計上するなら収益/費用の別仕訳。消費税は不課税が通常。
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負数量/負額行:: 許容するプロファイルでは返品等を負行で表現可。会計上は対価増減として起票(税も差額で動く)。
8. まとめ
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仕訳日記帳は“インボイスの対価”を基準に起票する。
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鑑(繰越・入金・差引)は表示のみ。入金は入金仕訳で管理。
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これにより、税計算の一貫性、売掛消込の整合、監査トレイルが明確になり、運用が安定する。


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