Views: 47
中小企業向けクラウド会計サービスとデータ連携による効率化:Open Accountingと中小企業への効果
2025-05-29
中小企業のデジタル化と効率化は、国の経済において重要な要素となっています。特に、クラウド会計サービスの導入と標準データ(XBRL GL)の利用によって、中小企業の業務は大きく改善され、業界EDIや金融決済サービスとの連携を通じて、さらなる自動化と効率化が可能となります。本記事では、標準データを使用することで可能となるクラウド会計サービスの提供とそのデータ連携について解説します。
北欧スマートガバメント&ビジネス (NSG&B: Nordic Smart Government & Business)は、北欧諸国における公共部門とビジネスのデジタル化を推進するための枠組みです。なかでも「Open Accounting(開かれた会計)」では、税務、財務報告、及び取引のデジタル化を進めています。本記事では、NSG&Bが中小企業に与える影響と、それに関連する標準データ(XBRL GL)及びペポルの役割について解説します。
1. 北欧スマートガバメント&ビジネス(NSG&B)とは
NSG&Bは、北欧諸国の政府及びビジネス業界が協力して推進する、電子政府とビジネスモデルの改善を目指したプロジェクトです。NSG&Bは、データの共有、標準化、およびデジタル化による効率化を支援し、特に中小企業の負担を軽減することを目的としています。
NSG&Bの具体的な取り組みとしては、データ交換の標準化と、デジタルインボイス(ペポル)やXBRL GL(Global Ledger)の導入が挙げられます。これらの技術は、政府と企業、さらには企業間での取引データを効率的に管理し、透明性を向上させるために使用されます。
実際に、NSG&Bはすでに北欧諸国でこの電子政府モデルを推進しており、企業のデジタル化が進んでいます。特に中小企業においては、これらの技術を導入することで、業務効率化やコスト削減が実現されています。
2. デジタルインフラによる業務データの一貫連携
2.1. デジタルインフラの整備
以下の図は、NSG&Bが掲げる「業務データを北欧全体で活用可能にするためのデジタルインフラの整備」を視覚的に示したものです。
Our vision
この図が示すのは、以下の6つの業務ステップに沿って、電子的かつ標準化されたデータが自動的に流れる仕組みです。
ORDER |
電子カタログなどを用いた注文情報の生成 |
INVOICE |
電子請求書の発行と送受信 |
RECEIPT |
支払や受領の電子的証憑の生成 |
BOOKKEEPING |
会計帳簿への記録(仕訳) |
REPORTING |
財務や税務など、各種報告書への展開 |
3RD PARTIES BEFORE REPORTING |
第三者(金融機関、政府機関等)への共有や連携 |
2.2. 自動連携がもたらす効果
この一連のプロセスは、単なるデジタル化ではなく、構造化された標準データ(XBRL GLなど)に基づくため、次のような利点が得られます:
-
業務間での再入力・転記を不要にすることで、人手やコストを削減
-
データの正確性・整合性を担保し、監査対応も容易に
-
リアルタイムに第三者と情報を共有し、信用調査や融資判断を迅速化
-
税務や規制当局への報告も自動化可能
3. 北欧スマートガバメント&ビジネスの開かれた会計
「開かれた会計」は、データの透明性を高め、企業間の取引を効率化するための枠組みです。特に中小企業にとっては、次のような利点があります。
-
コスト削減: 取引のデジタル化により、手作業による入力や誤りが減り、効率的な会計処理が可能になります。
-
透明性の向上: 標準化された会計データ(XBRL GL)を使用することで、外部監査や税務処理が容易になります。
-
業務の簡素化: デジタルインボイス(ペポル)やXBRL GLの使用により、複雑な会計業務や書類作成の負担を減らし、ビジネスに専念できる時間が増えます。
4. XBRL GLとペポルの役割
「開かれた会計」において、XBRL GL(eXtensible Business Reporting Language Global Ledger)とPeppol(Pan-European Public Procurement On-Line)は、重要な役割を果たします。
4.1. XBRL GLの役割
XBRL GLは、企業の会計データを標準化するためのフォーマットです。このフォーマットは、企業間でのデータ交換を効率化し、税務当局や監査機関とのコミュニケーションを簡便にします。特に、XBRL GLを使用することで、次のような利点があります。
-
データの標準化: XBRL GLにより、異なるシステムやプラットフォーム間での会計データの互換性が確保されます。
-
自動化の促進: 会計データが標準化されることで、手作業でのデータ入力や誤りを防ぎ、業務の自動化を実現します。
XBRL GLは、企業間でのスムーズなデータ交換を可能にし、税務署や金融機関とのやり取りを効率化する役割を担っています。
4.2. ペポルの役割
ペポルは、国際的に使用される電子データ交換(EDI)標準で、特に欧州の公共機関や企業間の取引に利用されています。ペポルを通じて、請求書や注文書といったビジネス文書のデジタル交換が可能になります。中小企業にとって、ペポルの採用は以下のような利点を提供します。
-
効率的な請求書交換: ペポルネットワークを使用することで、請求書の発行と受領が電子的に行え、処理時間とコストが削減されます。
-
国際的な取引の円滑化: ペポルは複数の国々で採用されており、異なる国の取引先とスムーズにデジタル取引を行うことができます。
ペポルは、特に国際取引の場面で重要な役割を果たしており、これにより中小企業は簡単に国際的な取引先と接続し、商取引の効率化を図ることができます。
注:フィンランドにおける請求業務以外でのペポルの利用については、
『フィンランドにおけるPeppol導入状況:電子インボイスから商取引・物流までの拡大』
をお読みください。
5. 中小企業向けクラウド会計サービス
5.1. クラウド会計サービス
標準データ(XBRL GL)を利用することで、中小企業向けのクラウド会計サービスの提供が可能になります。
これにより、『請求から「作業」をなくす』だけでなく、次のようなメリットが生まれます:
* クラウド会計サービスの提供:通信費や各種経費のWeb領収書(請求書)サービスや業界EDIとも連携させることで、サービスプロバイダーは、中小企業向けの包括的なクラウド会計サービスが提供可能となります。これにより、企業は日々の会計業務を簡単に管理できるようになります。
* 自動化されたデータ提出:e-Taxと連携することで、税務データを自動的に提出することができ、会計業務の負担が軽減されます。これにより、税務申告にかかる時間と手間が大幅に削減され、業務の効率化が図れます。
5.2. プロバイダロックインの回避や税理士との連携
会計アプリのプロバイダや販売調達アプリのプロバイダが標準データを採用し、税理士と連携したWebサービスをサービスプロバイダが提供することで、中小企業は自らのDX投資を行うことなく、デジタル化の効果を享受できます。このようにして提供されるサービスは、次のような利点を提供します:
* プロバイダロックインの回避:標準データを採用することで、異なるプロバイダ間でのデータ交換が容易になり、特定のプロバイダに依存することなくサービスを利用できます。これにより、企業は柔軟なサービス選択が可能になります。
* 税理士との連携:税理士と連携し、記帳作業を代行するサービスが提供されることで、中小企業は専門的な会計サービスを手軽に利用でき、効率的な税務処理が可能になります。
6. 金融決済サービスとの連携による経営状況の把握
さらに、金融決済サービスとの連携が加わることで、次のようなメリットが実現できます:
-
リアルタイムでの財務状況の把握:企業は日々の財務状況をリアルタイムで把握でき、経営判断を迅速に行うことができます。これにより、事業運営における即時の対応が可能になります。
-
融資審査の迅速化:経営状況を金融機関に提供することで、必要な匿名化を施した後、融資審査の迅速化が実現できます。金融機関は、即座に正確なデータを元に審査を行い、企業にとって有利な融資条件を提供できます。
-
金融機関の市場開拓:金融機関は、データドリブンでの融資判断を行うことで、より多くの中小企業にサービスを提供でき、市場の拡大につながります。
7. XBRL GLとペポルに関するNSG&Bからの情報
XBRL GLについての記述は、Architectural overview from NSG&B 3.0(pdf)のスライド28に、他の世界標準と併記されています。
同資料最終ページには次のような記載があります:
ペポルとEDI
EDIとペポルは当面共存すると思われる。
典型的なユースケース:
– EDI:豊富な文書タイプと情報要素により、バリューチェーン内の関係者を緊密に統合。統合レベルが高いほど、より高度な自動化が可能になるが、より多くのリソースを必要とする。
– ペポル:単発的な統合で、アクターが事前にお互いのことを知らなくても、単一の文書タイプ(通常は請求書)を交換できる。文書の種類は少なく、制限も多いため、EDIに比べて機能は低下するが、導入に必要なリソースは少なくて済む。
サービスプロバイダは、顧客のために異なるEDIネットワークとペポル間の変換を行うことができる。
– EDIは特定、ペポルはデフォルト
– バリューチェーン内のパートナーとの間でEDIを使用している企業は、バリューチェーン外のアクターとの販売や購入でも、標準形式データ(XBRL GL)で連携することで、ペポルのメリットを享受することができます。
政府がペポルを要求
EU規制の結果、北欧の全政府が公共調達の一環としてPeppol BIS Billingを要求することが義務付けられています。
すべての政府機関、および公共部門に販売するすべての企業が、業務システムの要件としてペポルをサポートする可能性が高い。
同じ要件が2012年から施行されているノルウェーの経験によると、このような要件により、ほぼ100%の業務システムがPeppol BIS Billing(送受信)をサポートしている。
北欧諸国における中小企業の電子商取引文書の交換を可能にするため、NSG&Bはエコシステム関係者の最低要件としてペポルへの対応を推奨しています。
8. 結論
「開かれた会計」の導入により、北欧地域の中小企業は、デジタル化と標準化による多くの利点を享受しています。XBRL GLとペポルの標準化されたデータ交換フォーマットを利用することで、取引の透明性が向上し、業務効率が大幅に改善されます。これにより、中小企業は経営資源をより効率的に活用し、競争力を強化することが可能となります。
日本でも、標準データ(XBRL GL)とe-Taxの連携により、中小企業は自動化された税務申告や効率的な経営状況の把握が可能になります。さらに、会計アプリや金融決済サービスとの連携により、企業は迅速で正確な経営判断を行うことができ、税理士との協力によって記帳作業の負担を軽減できます。このように、デジタル化を通じて中小企業は効果的に経営資源を活用し、競争力を高めることができます。
コメントを残す