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「標準」とは、広辞苑第4版では、『(2)あるべきかたち。手本。規格。』と説明されています。これではまだよくわからないので、今度は「規格」を調べてみます。こちらは、『さだめ。標準。特に工業製品の、形・質・寸法などの定められた標準』と説明されています。言葉の説明としてはこうした程度です。

より具体的なイメージをつかむためにISOにおけるネジの規格を確認してみます。

ISOは、International Standard Organizationの略。国際標準化機構。
国際標準化機関は、コトバンクのデジタル大辞泉の解説 では、
『国際的に適用される規格を制定する組織。国際的な取り決めによって設立され、国・地域による制限なく参加できる。ISO(国際標準化機構)・ ITU(国際電気通信連合)・IEC(国際電気標準会議)など。国際標準化団体。→標準化団体 』
と説明されています。
一般には、国際標準化機関(国際標準化団体)が制定する国際的に適用される規格が国際標準です。

ISO 68-1 ISO general purpose screw threads –Basic profile–

ネジの規格ですから次の図面のようなものが様々なネジについて規定されて集められているのかと思っていました。

ところが、ISO 68-1で規定しているのは、次のようなBasic profile(基本プロファイル)です。

ネジ山の幾何学的な形状を規定するための特徴的な寸法について変数が定義されていて、変数の間の関係式が次のように規定されています。

この関係式に従って、規定されているネジ山の規格が一覧表として規定されています。

これが国際標準の記述形式です。

ISOのネジ山の標準規格では、標準のネジ山の図面のカタログではなく、形態を特徴づける寸法の定義とその寸法間の関係を関係式として規定したうえで、具体的な標準寸法の一覧表を規定するという形で標準仕様を規定しています。

それでは、なぜこういった一見まどろっこしい表現で標準仕様を規定するという規格文書を作成しているのでしょうか。

ISOの文書作成時に準拠する規格に ISO/IEC Directives, Part 2という文書があります。この文書で規定されている規格の目的という個所を次に紹介します。

規格の目的

ISO/IEC Directives, Part 2は、略して DP2 と呼ばれています。DP2の第4章(Clause 4)に次の規定があります(日本語訳は英文の下に掲載)。

OBJECTIVE OF STANDARDIZATION

The objective of documents is to specify clear and unambiguous provisions in order to help international trade and communication.
To achieve this objective, documents shall:
• be complete within the limits specified by their scope;
NOTE 1 When a document provides requirements or recommendations, these are either written explicitly, or made by reference to other documents.
• be consistent, clear and accurate;
• be written using all available knowledge about the state of the art;
• take into account the current market conditions;
• provide a framework for future technological development;
• be comprehensible to qualified people who have not participated in their preparation; and
• conform to the ISO/IEC Directives, Part 2

標準化の目的

標準規格の目的は、国際貿易と相互理解を支援するために、明確で曖昧なところのない規定を文書化することである。
この目的を達成するために、文書作成では次のことを行う必要がある。
• 規格が対象とする範囲(Scope)で指定している範囲内で完全であること。
注記 1 文書が要件または推奨事項を規定する場合、これらは明示的に記述するか、または他の文書を参照して作成しなければならない。
• 一貫性があり、明確かつ正確であること。
• 最先端技術に関する利用可能なすべての知識を使用して書かれていること。
• 現在の市況を考慮に入れること。
• 将来のこの規格の開発のための枠組み(フレームワーク)を提供すること。
• 規格制定の当初の段階に参加していない専門家や技術者が(後から参加してもその前提が)理解できるようにしておくこと。 及び、
• この文書(DP2)に準拠して作成すること。

BIS Billing 3.0は標準仕様ですか

CEF eInvoiceは、次のようにEN16931規格に準拠することを求めています。
BIS Billing 3.0は、eInvoiceの実装の一つとして位置づけられていますのでBIS Billing 3.0は、EN 16931シリーズの欧州規格に準拠した標準仕様です。

EN 16931 compliance

The invoice document
The electronic invoice document that is created and sent must comply with all the rules that are defined for the CORE invoice or the CIUS specification that it is based on.

This includes that it:

shall contain all mandatory information.
relevant information must be structured as specified.
amounts must be calculated as specified.
elements shall only contain allowed values, such as codes.

(翻訳)
請求書
作成および送信されるデジタルインボイス文書は、コアインボイスに定義されているすべてのルール、または基になる CIUS 仕様に準拠する必要がある。
注1 コアインボイスおよびCIUS (Core Invoice Usage Specification)仕様については、EN 16931-1で規定されています。

これには次のことが含まれる。

  • すべての必須情報を含むものとする。
  • 関連情報は、指定されたとおりに構成する必要がある。
  • 金額は指定どおりに計算する必要がある。
  • 要素には、コードなどの許可された値のみを含める必要がある。

注2 この条件を満足した構造と値を持ったデジタルインボイスかどうかC2のサービスプロバイダーが提供されたスキーマトロンファイルで検証しています。検証結果に不備があるとその旨報告されC3には送られません。これと比較したとき、JP PINT(PINT)では、指定されたとおりに構成されていることを検証するBasic Ruleのほとんどが提供されていません。また一部の項目については計算が正しく行われたかチェックするルールも提供されていません。
詳細は、次の記事を参照してください。
BIS Billing 3.0からJP PINT 0.9.3に引き継がれなかった検証ルール 2022-08-10 

準拠すべき規格には次があります(図をクリックすると一覧表のページに遷移します)。

無償提供される規格や利用する際のガイドラインといった規格群に準拠しています。BIS Billing 3.0の公開ページの記載はこれらの規定を前提として記述されています。
必ず守らなくてはならない条件と守ることが望ましい条件を明確に区別し定義したうえでそれぞれについて記述していく、そのためには、先ず、基本となる用語や概念を文書で規定したうえで、それらの枠組み(フレームワーク)を用いて規定条件を記述するというのが標準仕様(標準規格)の文書化です。

PINTは、EN 16931からの自立を目指しているようですから、これらの規格群に準拠しているかどうか不明です。PINTが、根拠とする規格文書もありませんので、仕様としては根無し草の状態です。特定の専門家の思惑に依存した状態から脱皮していただきたいと思います。

「標準化の目的」について

標準化は、継続的な活動です。DP2に規定されているように、最先端技術を採用し、市況に対応できる、フレームワークが規定されていることが不可欠です。これは、継続的な標準仕様の維持と拡張には不可欠であり、こういったフレームワークが文書として規定されていることで、規格制定の当初の段階に参加していない専門家や技術者が(後から参加してもその前提が)理解できるようになります。

Open PeppolのPINTは、国際標準ですか

Open Peppolは、
「請求に関するルールに関する付加価値税の共通システムに関する指令」”DIRECTIVES COUNCIL DIRECTIVE 2010/45/EU of 13 July 2010amending Directive 2006/112/EC on the common system of value added tax as regards the rules on invoicing” (参照 EU法令サイト EUR-Lex )及び 
「公共調達における電子インボイスについての指令」”DIRECTIVE 2014/55/EU OF THE EUROPEAN PARLIAMENT AND OF THE COUNCIL of 16 April 2014 on electronic invoicing in public procurement” (参照 EU法令サイト EUR-Lex )
に基づいて欧州統一市場を実現することを目的としたCEF: Connected Europe Facilityプロジェクトの中で実施されたPan-European Public Procurement On-Lineプロジェクトが2012年に終了した後、それを引き継いで組織化されました。

21世紀のインターネットやXMLに関連した標準規格関連の詳細は、次のURL をご確認ください。

Open peppol自身は、自らのことを次のように紹介しています。
What is Peppol?
“Peppol is a set of artifacts and specifications enabling cross-border eProcurement. ”
「Peppol は、国境を越えた電子調達eProcurementを可能にする成果物と仕様の集合です。」
Open Peppolは、(EU加盟国間の欧州統一市場における各加盟国政府の電子調達)eProcurementを実現することを目的とした「成果物と仕様の集合」と宣言しています。

PINTについては、次のPeppol International Invoice model review – PINT に2020年の版が公開されていますが、最新版への更新が見られません。
残念ながらPINTは、こうした標準規格の文書化についての意識に乏しく、基礎となる準拠すべき文書がありません。BIS Billing 3.0は、CEN/TS 16931-3シリーズで規定されたUBLへのシンタクスバインディングを根拠にしていましたが、この文書に相当する規格がPINTにはなく、根無し草です。
基礎をしっかり固めたうえで構造物を作り上げないとせっかく構築した構造物が軟弱基盤のため傾いてしまったり崩れ落ちてしまったりといったことはよくニュースになっています。こんなときこそ手戻りのない作業を着実に進めるために技術的な枠組み(フレームワーク)の定義から始めなけばいけません。これが標準化の基本思想であり、産業革命以降の工業化の基礎となる考えかたでしたが、時代遅れでしょうか。2023年秋は、ゴール地点ではなくスタート地点です。

『国際規格のOpen Peppol』、『国際規格Peppol準拠』、『国際標準のOpen Peppol International Invoice: PINTに準拠したJP PINT』、『国際的な標準規格PINTに基づいたJP PINT』、等は誤解を招く表現だと思います。Open Peppol自らも「国際標準化団体」であるとは言ってませんし、PINTが国際標準とも言っていません。国際的に使用されて普及しているデジタルインボイスの仕様ですが、国際標準にしようとはOpen Peppolも考えていないと思います。

デファクトなグローバルスタンダードになる可能性は感じますが、日本国内においては、政府調達で主導しようという意気込みも感じられず、各種のEDIのなかでスタンダードになるかはこれからの取り組み次第だと思います。

デジ庁のサイトでは、『「Peppol(Pan European Public Procurement Online)」とは、電子文書をネットワーク上でやり取りするための「文書仕様」「ネットワーク」「運用ルール」に関するグローバルな標準仕様です。国際的な非営利組織である「OpenPeppol」という団体により管理されています。』と記載されています。

従来の、BIS Billing 3.0は、欧州規格 EN 16931シリーズに対応しており、セマンティックモデルの位置づけ、シンタクスバインディングの考え方やその扱い、そして加盟国それぞれでの拡張の仕方などが文書化されており、2020年に調査に着手したときにも、あいまいな個所がなく明快な定義が文書化されていましたので、容易に理解できました。

それと比較した場合、現在改定中のPINTでは、その設計の背景やフレームワークが文書化されておらず(2020年の版が公開されていますが、最新版への更新が見られません)、特定の専門家の判断に依存しているようでは、フレームワークがあるとは言えません。BIS Billing 3.0は、EN 16931シリーズの欧州規格に準拠した標準仕様でした。これと比較するとPINTは、Open Peppolの「文書仕様」ですが、標準仕様とは言えません。現在主導しておられる専門家の次の世代になったときにどのような判断基準でどのような方法で新たな市場環境や規制条件に対応するのか、その根拠が文書化されておらず、仕様の維持拡張がその場しのぎにならないか不安を感じます。

再度、「標準化の目的」で書いた内容を繰り返します。
標準化は継続的な活動です。DP2に規定されているように、最先端技術を採用し、市況に対応できる、フレームワークが規定されていることが不可欠です。これは、継続的な標準仕様の維持と拡張には不可欠であり、こういったフレームワークが文書として規定されていることで、規格制定の当初の段階に参加していない専門家や技術者が(後から参加してもその前提が)理解できるようになります。

PINTが「標準」と言えるかどうかは、ここまでの解説をお読みいただいた方それぞれで判断して下さい。

ISO/TC 295 Audit data services
SG1 convenor Nobuyuki SAMBUICHI